<モスクワの海・延期記>中止を超える
- 2020/12/19
2020/12/19
「モスクワの海」が中止延期になった。
先に、長い文章を書いた。そこに書かれていることが全てである。今まさに新型コロナウィルスが感染拡大している真っ只中だ。様々なことを議論し、お客様のためにも、社会のためにもやらないほうがいいと、4人で決断した。
決定し、事を粛々と進めた。各所に連絡し、説明をした。TwitterなどのSNSに書き込み、告知をした。メールを書いたり、返信したり、稽古場のキャンセルをしたり、それで数日が経過した。
この舞台は今年の夏から準備を始めた。このコロナ禍の中、ひょっとしたら「こうなるのではないか」とあらかじめ覚悟はしているつもりだった。そうなってもへこたれたりしないように心の準備をしていた。日々ジャッジを重ね、自分のメンタル危機管理を整えていたはずだった。
しかし実際は、それを軽く飛び越えてくるものがあった。まあ、私のメンタルの弱さは各方面に定評がある。「涙に価値がない」とまで言われるほどの泣き上戸だ。まずはそこだろ、かもしれないものの。
「公演中止の選択は、もしかしたら間違っていたのではないか」
「意味をなさないものなのではないか」
その思いが今も自分の中にある。
「会食、ステーキ、マスクなし」。
一連の報道を見る。
これで「医療従事者に云々」という、その矛盾。
誰が、誰を守るのか。
この大いなる矛盾を引きうけて、私たちは前に進むしかない。
10月からこつこつ稽古をしてきた。
その中で、出演者の3人である松竹生さん、高木珠里さん、踊り子ありさんとたくさん話をしてきた。
いいチームだと思う。
この状況下で演劇の稽古を続けることは結構いろいろ大変だけど、まずもって重要なことは「相手を尊重すること」だと思ってやってきた。人として当たり前のことだし、とりたてて言うことではないかもしれない。小さなことかもしれない。でもこれは結構超重要で。それが今4人の間で、バリバリ成立している。ストレスがない。奇跡のフォーメーションだ。それは俳優3人が舞台上でお互いを尊敬し合っているからなのではないかと、稽古を見ていて感じた。もしかして3対1だったら、どうしよう!でももし3人が結託して私の悪口を言っていても、私にバレなければ構わない!頼む、この先もだまし続けて欲しい!
ここで皆さんに朗報。3人ともすごく素敵な俳優さんだ。
3人を見ていると、俳優の呼吸とはこういうことなのだなあと勉強になるし、あと、純粋に楽しそうだ。面白いことをやろうとか、こういうふうに見せようとか、そういうことではなく、それ以前に、もっと原始的な「幸福」がそこにあるというか。私も3人に混じってセリフを言いたくなるが、あいにく私の出番は一切ない。びた一文ない。私は基本的には当て書きスタイル(世にそんなスタイルがあるのか知らないが)なので、今後も自分のセリフは書けないし書くつもりもない、感じがします。ちょっと厳しい、感じがします。
中止にしようと決めた日、3人が延期を強く希望してくれたことに、大きな力をもらった。
前に進む力だ。
私もこの3人の姿をみんなに見て欲しい。
暖かくなった頃に、なんとか、見て欲しいと思う。
それが私の次の目標になった。
少ない機会を最大限使い、稽古に勤しみ、いつか見てもらえますように。
というわけで、小さな演劇「モスクワの海」は続くことになった。中止になってから書き始めるのも不思議だけど、この公演に関して思ったこと、俳優のことなど、チームのことをここに記録していこうと思う。
2020年から2021年の我々の演劇の記録である。
新型コロナウィルス感染拡大が少しでも収まりますように。
うがい、手洗い、マスク、これ絶対。