2021年12月の公演に寄せて
- 2021/11/04
昨年の12月、新型コロナウィルス感染拡大の中、なんとか「モスクワの海」の稽古をしていました。
これはもしかしたら公演はできないかもしれないなあ…と思いながら、でもギリギリまで踏ん張ろうと4人でもがいていたと記憶しています。
しかし、新型コロナウィルスの新規感染者数は激増。不安視されていた東京の医療危機は現実のものとなってしまいました。
公演の一週間前、私たちはたくさんのことを話し合い、意思を確認をしました。そしてこの演劇公演の「無期限延期」を決めました。
あの日から、ちょうど1年が経とうとしています。
45歳、何とか生きております。
いろいろ頑張って動いております。
でも、せわしなく動いているようで、実際はどこかが止まっているような1年でした。
精神的にも身体的にも、どこかの一部が沈黙している。
そんな感覚が、ここ最近の私を大きく支配しています。
この2年弱、私を含むすべての人たちが、巨大な波にのまれました。
のまれ、浮かび、漂い、時に諦めそうになりながら、とにかく呼吸をやめないように。
皆、どこかそういう思いで、この夏を生きていた(乗り切った)のではないでしょうか。
その強度や深度は社会的数値にはなりません。
比較できません。
ただ、それぞれ個人の絶対的な感覚において。
心の傷はひとそれぞれで、他人と比べることなど到底難しいのです。
そして、もちろんその困難を超えて、我々は共闘していかねばなりません。
ここに昨年私が書いた、ある小さな小さな物語があります。
あるなあ、あるんだよなあ、と思いながら夏を過ごしました。
いつ上演されるかわからなくなってしまった戯曲です。
考えると胸が痛む日々が続きました。
この企画自体が消えてしまうのではないかと不安になる日も多くありました。
しかし、ふと出演者の3人の顔が目に浮かび、やっぱりやってみようと。
3人とはあれから一度も会っていません。
3人がどうやってこの1年を乗り切ったのかも、知りません。
しかし、なんとなくですが、想像はできます。
3人ともに、それぞれに、個人的な痛みを持ったとしても、今日まで生き抜いたに違いない。
こんなことを考えながら、そうだ、私たちにはまだ想像力が残っているのだ、と思いました。
そういえば、この戯曲は想像力がひとつのテーマでもあります。
そんな舞台にしたかったのだ!
というわけで、漂着できないまま揺れる私たちの姿。
私たちがまたどこかにたどり着くために。
たどり着かなくとも、生き切るための、そんな舞台を想像して、また創作してみよう。
セリフはなるべく変えずに……そんなことできないか。
この1年、自分も世の中もひっくり返っちゃったんだから。
でも、なるべく、感覚としては、変わらないものを。
また稽古場で、楽しんで作ろうと思います。
再演でもないのですが、気持ちを新たにと思い、タムナデ姉さんに再びチラシのイラストを描いていただきました!
凛々しい少年が我々の漂流を見守ってくれているかのようです。
松竹生、高木珠里、踊り子ありという素晴らしい俳優3人と一緒に創作できる喜びを胸に。前向きに生き抜くために。
もちろん感染対策を徹底しつつ、
年の瀬の下北沢で、再びぽつんと4人、お待ちしております!
2021年11月
スヌーヌー
笠木泉